8月15日

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 兵舎の南、かつて学校の運動場だった広場の中央に、声の主は居た。  満点の夏の星空に向かって何かをおらんでいる。  夏の星座がはっきりとみえる。降るような星空。天の川も見える。  星々のことを教えてくれた友はつい数日前の出撃で散った。  誰だろう。何を言っているのか。大きな声で何かを滔々としゃべっているのだが。  まるで聴きとれなかった。  それは、隣の班の班長だった。  衝かれたように星空に向かって何かしゃべっているのだ。  狂ったのか。戦争が終わったことが何か彼の心を乱したのか。  いつのまにか、ぼくの班の班長が隣に立っていた。  あれは朝鮮語だよ。彼は朝鮮人なんだ。  終わったから、隠す必要もなくなったから、誰はばかることなく、ああして母国語で叫んでいるのだ。  俺も朝鮮語は知らんから、何をしゃべっているのかは知らんが、何でもよいのだろう。  何でもかんでも、今まで使えなかった自分の言葉を、ああして発し続けているのだ。  終わったな。負けたんだ。おれたちは。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加