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終わった、終わったのだといいながら班長は兵舎にもどっていった。
ぼくはなんだか戻れなかった。いつ果てるとも知れないことばの祀りを聴き続けた。
彼のことばはまったく聴きとれなかったが、ひどくリアルだった。
戦争は終わった。ぼくらは負けた。何かがはっきりと変る。新しい何かが始まる。そのことがひどく現実味(リアリティ)をもって迫ってきた。
怖い。
突然、怖いという感情が生じた。何が怖いのか。
明日、死ぬかもしれないという日々の中で、一度も感じたことがなかった、すっかり忘れていた感情。
怖い。
本当に戦争は終わったのだ。これまでの十数年と、何も見えてこないこれからがのしかかってきた。ひどく不安になった。
そして、これから何とかして生きてゆかねばならぬ。どうやって生きてゆくか。
生々しい欲求やひどくリアルな不安が身体に染みてくる気がした。
突然、現実というものが姿を顕し、それに立ち向かわざるをえない。
生々しい昂ぶりだった。
満点の星空に、聴きとれないけれど毅(つよ)いことばたちが吸い込まれてゆく。
祀りはまだまだ終わりそうにない。
ことばたちは大空にひろがり、煌々とかがやく月にぶつかり、星々になって天にはりつく。
ことばだった星々が見下ろす乾いた大地に立って、
ぼくはいつまでも祀りをながめていた。
《完》
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