落下系

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最初は小さくて判らなかったんですが、だんだん、それが誰か予想がつきました。 ああ、部長だ、って。直感で判りました。え? 視力悪いのになんで判ったかって? 言ったでしょ、直感だって。 ええと、たしか最初に言ったかな、ミスを押し付けられたって。 相当腹が立ってたものですから、何か仕返ししてやろうと思いました。 しかし、出来る事は限られていました。お分かりの通り、この有り様ですから。 そして、私はとっておきの仕返しを思い付きました。 部長はどんどん近づいていく私に気がついていないらしく、ただ突っ立っているだけで、格好の餌食でした。 そして、すれ違い様に、私は部長の頭に手を伸ばしたんです。 ――取ってやったんですよ、奴のカツラを! その時の部長の顔ったら! 目ぇ真ん丸にして、「えっ」て口開いて……いい気味です。 ……まあ、今は申し訳無いと思うのですが。 で、軽く仕返しをして気が晴れたので、カツラを放り投げました。……あのカツラ、今どうなったんだろ。 その後は……うーん、特にこれと言って面白い事はなかったかなあ。それとも、私の感覚がずれてしまったのかな。 え?今までどうやって生きて来れたのかって?ああ、それは……先ず報道陣が来たのがきっかけだったかな、そしたらボランティアの人たちが支給とかしてくれて。この毛布とかもそうなんですが。 人の温かさに感動しましたよね。ただ、手渡しの時、一時間に一回しかチャンスが無いもんで……あ、この事は言って無かった? 実はですね、一時間周期なんですよ、1ループ。 話を戻して、渡されるとき、タイミングが合わないと取り損ねちゃうんですよ。今でこそもう慣れて、百発百中ですけど。 今はボランティアの人たちとは最高の仲ですし、以心伝心っていうんですか……そんな感じのものが有ると思います。 レスキュー隊の人たちがなんとか救助しようとしてくれたんですけどね、なす術が無いようで。 でも、この生活を続けて早1ヶ月。生活には全く支障無いですし、今は満足してますよ。あなたも如何ですか?あ、遠慮しますか、やっぱり(笑) ああ、いつまで続くんだろうなあ、この生活。 また取材する機会があったら、その時は宜しくお願いします。」 R氏はあの状態になって、むしろイキイキしているようだった。あの穴は、まさに彼にとって……】
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