15人が本棚に入れています
本棚に追加
出会いは偶然。
七年前の冬の夜、しとしとと降る雨が雪に変わるのではないかというくらい、冷たかったあの日。
私は傘もささずに、歩いていた。
颯爽とではなく、フラフラと。
前を見るでもなく、辺りをぼんやりと。
やがて、一軒の店の前で立ち止まった。
大正時代から、タイムスリップしてきたかのような佇まいの喫茶店。
古い洋館の様にツタの絡み付いた外壁に、木製の大きめのドアの茶色が際立って見える。
店名を教える看板は無い。
営業中なら通りから見えるように、『エル・グレコ』と歴史を感じさせる看板があるはずだが、今は深夜の一時だ。
私は人気の無い路上で泣いた。
普段から声をあげたりするのが苦手なタイプだけれど、嗚咽をこらえることが出来なかった。
七年間の出来事が走馬灯の様によみがえり、呪縛の様に逃れられない気がした。
涙は雨と判別出来ない程にとめどなく目から溢れ出したが、涙だけが温かく頬をつたった。
どれくらい時間が経ったのか、五分にも五時間にも感じられた。
その時、背後から錆びた金属音がした。
最初のコメントを投稿しよう!