出会い

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出会いは偶然。 七年前の冬の夜、しとしとと降る雨が雪に変わるのではないかというくらい、冷たかったあの日。 私は傘もささずに、歩いていた。 颯爽とではなく、フラフラと。 前を見るでもなく、辺りをぼんやりと。 やがて、一軒の店の前で立ち止まった。 大正時代から、タイムスリップしてきたかのような佇まいの喫茶店。 古い洋館の様にツタの絡み付いた外壁に、木製の大きめのドアの茶色が際立って見える。 店名を教える看板は無い。 営業中なら通りから見えるように、『エル・グレコ』と歴史を感じさせる看板があるはずだが、今は深夜の一時だ。 私は人気の無い路上で泣いた。 普段から声をあげたりするのが苦手なタイプだけれど、嗚咽をこらえることが出来なかった。 七年間の出来事が走馬灯の様によみがえり、呪縛の様に逃れられない気がした。 涙は雨と判別出来ない程にとめどなく目から溢れ出したが、涙だけが温かく頬をつたった。 どれくらい時間が経ったのか、五分にも五時間にも感じられた。 その時、背後から錆びた金属音がした。
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