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私は咄嗟に泣き止んだが、振り返る勇気は無かった。
消えてほしいと祈る気持ちと、ほんの僅かな期待感に肩が強張る。
しばらく沈黙が続いた後、男の声がした。
「一緒に、帰りませんか?」
知らない声だった。
だけど、冷えきった心を動かすには充分だった。
ゆっくり振り返った先にいたのは、傘をさして自転車にまたがったトナカイ。
私は目を細めてもう一度よく見直した。
赤鼻以外は人間。
いや、今日は寒いし鼻ぐらい赤くは、なる。
ただ、丸い。
付け鼻?何の為に?
怪しい……。
やっぱり変質者?
その時、男がもう一度口を開いた。
「へ、変質者じゃないですよ!
あっ、そうか。この鼻のせいか。
これは、さっきまでクリスマスパーティーをしてたから……」
あたふたと赤鼻を取る姿に釣られて、おもわずフッと笑った。
それを見て、彼は優しい笑みを浮かべるとすぐに照れたようにうつむく。
次に一つ咳をすると、探るように上目遣いに私を見て、持っていた傘を差し出した。
「後ろに乗って」
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