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私は黙って傘を受け取ると、自転車の後ろに座った。
何故か、自分でも分からなかったけど、それが自然な気がした。
家族が迎えに来てくれたような感じで。
それと、投げやりな気持ちもあった。
彼は「行くよ」と聞こえるか聞こえないかくらいの声で言うと、力を込めてこぎはじめる。
私は一応遠慮して、自転車の部分に掴まっていたが、やがて彼の腰に手を回した。
それは抱きつかずにはいられない程、彼がスピードを出したからだ。
しかも道が長い下り坂になっていて、私は堪えられずに叫んだ。
「ギャ~!」
強く目をつむり、しがみついていたせいで、何も考えられなかった。
気がついたらコーポの駐輪場だった。
自転車から降りるとずぶ濡れで、赤い鼻ではなく赤い顔をした彼が自転車にへばり付いている。
「内臓、飛び出るかと思った」
「自分がっ!
……あれ?傘が無い」
「ああ、落としちゃったかな。
まぁ、明日バイト行く時探しとくよ」
そう言うと、階段を上がり始めた。
途中まで上がると振り返って、私に手を差し出す。
「こっち」
少しずつ階段は上がっても手を取るべきか戸惑ってる私を見て、彼は黙って手を下ろした。
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