出会い

4/13
前へ
/44ページ
次へ
私は黙って傘を受け取ると、自転車の後ろに座った。 何故か、自分でも分からなかったけど、それが自然な気がした。 家族が迎えに来てくれたような感じで。 それと、投げやりな気持ちもあった。 彼は「行くよ」と聞こえるか聞こえないかくらいの声で言うと、力を込めてこぎはじめる。 私は一応遠慮して、自転車の部分に掴まっていたが、やがて彼の腰に手を回した。 それは抱きつかずにはいられない程、彼がスピードを出したからだ。 しかも道が長い下り坂になっていて、私は堪えられずに叫んだ。 「ギャ~!」 強く目をつむり、しがみついていたせいで、何も考えられなかった。 気がついたらコーポの駐輪場だった。 自転車から降りるとずぶ濡れで、赤い鼻ではなく赤い顔をした彼が自転車にへばり付いている。 「内臓、飛び出るかと思った」 「自分がっ! ……あれ?傘が無い」 「ああ、落としちゃったかな。 まぁ、明日バイト行く時探しとくよ」 そう言うと、階段を上がり始めた。 途中まで上がると振り返って、私に手を差し出す。 「こっち」 少しずつ階段は上がっても手を取るべきか戸惑ってる私を見て、彼は黙って手を下ろした。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加