相合い傘

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「別れて」 彼女は平然とした声でそう言って、返事を待たずに去っていった。 そして思い出した。 ここ、店内だっけ。 そういや話しがあるって、喫茶店に呼ばれたんだ。 ………周りの目が痛い。 俺は冷えた珈琲を無理矢理飲み干した。 店から出ると、激しい雨が。 傘は持っているものの、何となく雨に当たりたい気分なので、傘は差さずに、ゆっくり歩き出した。 悲しい気持ちを洗い流したいとか、そんな理由ではない。 本当にただの気分的なやつ。 ……なんて、嘘だ。 イライラしてるから、気を紛らわしたい。 激しい雨の中、余計な音が聞こえぬように 何も考えないように 俺は身体に当たる雨粒だけに集中する。 濡れて重くなった服 張り付く髪 ぐちゃぐちゃで気持ち悪い靴 それらよりうっとおしいのは、頭の中で鳴り響く、彼女が別れを告げる前に言った言葉。 「…可哀相な人。」 どういう意味だこの野郎。 …って、女に野郎は間違いだな。 俺の頬を叩いた後、怒鳴りもせずに、静かに言った言葉。 …俺が可哀相な人だって? 可哀相なのはそっちだろう。 ん?待てよ。 ストーカー行為を受けて、付き合って、こんな気分にさせられて… ………いや、彼女が言いたい“可哀相”はそういう意味じゃない気がする。 どういう意味なのかわからない俺は、一生懸命頭をフル回転させる。 しかし途中面倒になって、考えるのをやめると、ゴロゴロ…と空が不穏な音をたてていることに気がついた。 …雷、か。 雨に当たって気分を紛らわしてる場合じゃない。
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