出逢い

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「ジリジリジリジリーン!」 いつの間にか朝か…。 昨夜は熱帯夜のせいで寝苦しかった。私は起きたくもないのに無理矢理に重い体をおこし、機械的に顔を洗い歯を磨き、なんとなくテーブルについて、なんとなくTVのニュースを見る。 すると妻が何も言わずトーストとミルクを運んできた。 会話は無い。いつもの事だが。 私は無機質な機械の様に、まるで作業の様に食べ物を腹に流し込む。特売のパンとミルクは何の味もしない。 「行ってきます」 …なんの返事も無いが一応言っていく。妻とはもうしばらく何も無い。 私の目を盗んで携帯をイジッテイル彼女は最近何を考えているのか分からない。 家を出ると気楽だ。…会社に着くまでは。 私は満員電車に揺られて揉みくちゃにされながらも、いつも通りに駅に着き会社に向かう。 会社に入るとまた私は気を使う。「おはようございます。」 「おはよう!今日は頼むよお!頑張ってよ!」会社に着けば着いたで上司にさっそく嫌みを言われる始末。 私と同期の彼は上司に気に入られ、出世コースまっしぐらだ。 私も昔は彼と張り合って、いいところまでいったが、私は人付き合いがあまり得意ではなく…今は彼に顎で使われる立場だ。 「はい、迷惑掛けないように頑張ります。」 と言うのが精一杯だった。 実際今の私は何の張り合いもない。仕事も、プライベートも惰性で生きている。 たまに気分が乗った時には、今でもソコソコの成績は残すが後が続かない。日常に張りが無いのだ。 「今日はどうやって1日を乗り切るかなあ…」と思いながら…朝礼の上司の有難いお話を、上の空で聞いていた。 「…そしてえ、今日からあ、新しい方が仲間に加わります。自己紹介をどうぞ!」 そこにはいかにも初々しい女性が立っていた。 「新垣瑶子です、宜しくお願いします。」 人前に立つのが苦手なのか、辿々しく挨拶した彼女はそれだけ言うとすぐに座ってしまった。 「パチ…パチ…パチパチパチパチパチ。」タイミングが分からずまばらに起こる拍手。 「なんか冴えない子だなあ。あれで営業、大丈夫なのかなあ…」 それが私の第一印象でした。
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