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翌日。
午前七時三十二分。
いつもより随分と早いが、だからと言って二度寝するにも微妙な時間に目が覚めてしまった俺は、珍しく登校時間までに教室についた。
……もうみんな中にいんのかな。
寝坊ばかりで朝の教室の様子をあまり知らない俺は、そんな呑気なことを考えながらドアを開けた。
「……お」
思ったより揃っていない。自分の席に座るりっちゃんと、その横でスマホを触っている圭輔。二人だけだ。
残りはこれから登校してくるのだろう。
「え、あれ? 森也?」
「うっわ、なんでお前、こんな時に限ってはよ来るねん」
「普通におはようって言えんのか」
「こんなレアケースで普通に挨拶できるほど、俺らのスキル高ないわ。なあ、りっちゃん」
なに言ってんだ、こいつ。苦笑しながら、自分の席に向かう。
「……ん? あれ、『こんな時に限って』ってどういう意味よ?」
「えっ」
鞄から教科書を取り出しながら尋ねる俺に、圭輔は「えーっと……」と口ごもる。怪しい。よく見ると、彼が触っているスマホは、りっちゃんの物だ。
「なに? りっちゃんのスマホに何かあったん?」
俺の言葉に、圭輔はわかりやすく頬を引きつらせ、窺うようにりっちゃんの顔を見た。
「あー、なんていうかー」
「ええよ、圭輔。森也にも聞いてもらう。あのな、森也……。これ、他の、女の子とかに言わんといてな……」
「え、あ、うん」
神妙な口ぶりで話し始めるりっちゃんに、少しばかり緊張する。どうやら深刻な事態らしい。
「圭輔、僕のスマホ、森也に……」
「ああ、うん」
手渡されたスマホは、メールを開いたままの画面で止められていた。
「沙穂ちゃんからのメールやん。え、これ俺が勝手に見てええヤツ?」
一応りっちゃんに確認を取る。彼は無言で頷いた。
「……え?」
文面にぎょっとして、りっちゃん、そして圭輔の顔を見る。
「意味わからんよな」
圭輔の乾いた笑い声が、場違いに浮かべられた。スマホを持っている指先が冷えていく。
「なにこれ」
目を伏せたりっちゃんは、まるで放心しているかのように動かない。
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