1.悪戯メッセージ

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「おはよーございます」 遅刻ギリギリに、佐山がドアを開けた。   「ああ、はよ」 平然を装って挨拶を交わしたつもりだが、彼は教室の微妙な空気を感じ取ってしまったらしい。 アイが手に持つスマホを一瞥すると、言葉を発することなく席に着いた。 「そういえば、さ、沙穂ちゃん遅ない?」 今その名前を出すか。頭の中で圭輔に突っ込む。 「ああ、沙穂ちゃんなら都留先生に呼ばれて職員室だよ。さっき会ったから」 「あー、そうなんや」 沙穂ちゃんが職員室に呼ばれるのは珍しいことではない。学級委員だからだ。 「……え、何これ。ひど」  那子の低い声が落とされる。心臓に、ピリッと緊張が走った。佐山から、女子たちへ目線を移す。 「……ありがと」 アイは、メールの内容に一切触れず、りっちゃんにスマホを返した。それを受け取った彼の瞳が不安げに揺れる。 混乱を隠しきれない那子に対して、アイに表情は無かった。何を考えているのかわからない、冷たい眼。悲しみや怒りではない、蔑みの色を滲ませた視線が、りっちゃんの手元、スマホに落とされていた。 誰も、何も言わなかった。いつもの態度からは想像もつかない、アイの不気味な存在感。 不安の波が押し寄せて、俺を飲み込む。息が出来なくなるような。足元がぐらついて倒れてしまいそうな。久しぶりの感覚だった。 みんなが、あの圭輔ですら、アイに怯えている。 佐山だけが、自分のスマホをいじりながら、その場の空気を観察していた。
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