4728人が本棚に入れています
本棚に追加
アイは、どう動くだろうか。
シャーペンを動かしながら、考える。英語の授業中。
あれからすぐ、沙穂ちゃんが教室の中に入って来た。
俺たちは、できるだけ自然に。彼女に笑顔を向けていたと思う。だけど、溢れ出す不信感のせいで、彼女を見る目は変わってしまった。
歪められた沙穂ちゃんの姿。柔らかく笑う彼女の奥の、汚い心を見透かそうと、目を凝らす。
アイは、彼女の「おはよう」に返事をしなかった。沙穂ちゃんが何を思ったのかはわからない。
もしこれから、アイが沙穂ちゃんを無視し続けるとして。それは、二人の関係の亀裂だけに留まるだろうか。
ありえない。ただでさえ、この教室には七人しか居ないのだから。
一時間目の終了が、怖かった。次の休み時間。アイの行動で、F組の行く末が左右される。
何も知らない英語教師が、弾むような声で教科書を音読していた。
「那子ぉ、トイレついて来てー」
チャイムが鳴り終わると同時に声を上げたのは、アイだった。
「……ええよ」
笑顔で応える、那子の声が固い。教室を出ていく二人の背中を眺める。
彼女たちがこれから交わす言葉の数々を、頭が勝手に予測していく。「沙穂ってあんな子やったんやー。良い子ぶっとったクセして。ウチら、ずっと沙穂に裏切られとったんやで、なあ、那子」
――もう、あんな子と話すのやめようや。
確信めいた予想に、心臓が音を鳴らす。
最初のコメントを投稿しよう!