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佐山も驚いたのか、彼女を凝視している。圭輔に至っては口を半開きだ。幽霊にでも遭遇したかのような反応である。
「あ、ごめんなさ、い……」
間違いを恥じるかのように、また俯く。謝る意味がわからない。いじめられっ子の顔。びくびくと怖がりながら、一方的に俺を敵だと突き放す。
「ううん、どうかした?」
出来るだけ笑顔を保ちながら、話を促す。さっきの反応はどうも気になる。
「あ、違うねん、ただ、佐山くんが……」
佐山が?
「おれ?」
きょとんとしながら、佐山が人差し指を自分に向ける。
「LINEって、佐山くん、ガラケーやからLINEやってないって……、こないだ……」
「ああ。そう言えばそんなこと言ったね。実はつい最近買ったんだ、スマホ」
そう言って微笑む彼。ごく自然なやり取りだが、この二人、いつの間にそんな話をしていたのだろうか。
「そうなん、だ」
何か重い病気に侵されているかのように。沙穂ちゃんは弱々しく笑い返す。弱いよ、本当に。友達に無視されただけでそんな風になってちゃ、これから生きていけない。いじめというものは、この程度で終わってくれない。
話は終わったと判断したらしい、圭輔と佐山は教室の奥へと歩いていく。仕方なく俺も二人の後に続く。
「てか、佐山、いつの間に沙穂ちゃんにLINE聞かれてたん?」
「あー、ほら。転校してきたばかりの時、彼女に学校説明してもらったじゃん? あの時、話の流れでさ」
「へえ」と相槌を打つ圭輔。
……ガラケー。LINEやってない。最近買ったスマホ。ID。
「梶さん」
「ん?」
深みにはまっていきそうな思考を呼び戻す。佐山が自分の英語のノートを破きながら、俺を見ていた。
「圭輔にID渡しておくんで、あとで梶さんも追加しておいてくださいね」
「ああ、りょーかい」
symy……。佐山が、さっきのノートの切れ端にIDを書き込んでいく。名前をローマ字にして、母音を抜いたものに、三桁の数字。誕生日だろうか。ありきたりな文字列。それにしても。
近くにあった机に腰を下ろす。持ち主をとりあえず確認するが、りっちゃんの席だったので大丈夫だと判断。そのまま座らせていただく。
それにしても、先ほどの沙穂ちゃんと佐山の会話が、やけに引っかかるのはなぜだろう。
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