1.悪戯メッセージ

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無視から、言葉の攻撃へ。ほんの数分前まで一緒に馬鹿騒ぎをしていた圭輔が、恐怖の心を宿した目でアイを見る。 「なあ、那子?」 もう一度。同調の強制。ニコニコと笑い続けるアイ。これは脅しだ。那子は、「はは」と逃げるように笑い声を上げた。それを同意と受け取ったらしい、アイは満足そうに頷くと、視線を右に移した。 開いたドアから見える廊下には、いつの間に登校してきたのか、りっちゃんが立ちすくんでいた。 「りっちゃんは?」 「……え?」  びくりと肩を揺らしたりっちゃんは、目を見開きながらアイを見上げる。 「あー、でも来んくなったらそれはそれで困るか。委員長なんてアホみたいな仕事やりたいんは沙穂だけやしー。なー、りっちゃんもやりたくないよなあ、あんな仕事」 「あ、うん……」 さして躊躇う素振りも見せず、彼は首肯する。「委員長をやりたくないだろう」という質問だけに同意したつもりなのかもしれない。しかし、そこで頷くことはつまり、沙穂ちゃんへの中傷の加担を意味する。 沙穂ちゃんは、自分の左腕を右手で握っていた。……震えている。微かだけど。 アイはそれから俺を睨んだが、そのまま何も言わず、圭輔と向き合った。昨日のこともあるし、俺を取り込むのは後回しだと考えたのだろう。 「圭輔は、どうする?」  けいすけはどうする? なんだ、その質問は。 「え?」 問われたことの意味を図りかねた圭輔が、口元を引きつらせる。いや、意味を図りかねたフリをした、というのが正しいか。 つまり、アイが聞きたいのは「圭輔は私と沙穂、どっちにつく?」「いじめっ子といじめられっ子、どっちになる?」。圭輔だって、本当はわかっている。ただ、答えが見つからない。 なんなんだ、これは。どうしてF組はアイの天下になってしまったんだ。なぜ俺たちは、反抗のひとつも出来ずにいるんだ。 俺は多分、気付き始めていたのだと思う。この教室には、俺と佐山だけが知らない「理由」が存在する。
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