1.悪戯メッセージ

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返事をしない圭輔に痺れを切らしたアイが、佐山と目を合わせた。 それに気づいた彼は何も言われていないのに、しっかりと笑顔を作る。 「俺は、新参者だし、よくわかんないかな」 それを聞いたアイは、つまらなさそうに「ふうん」と呟く。 新参者のくせに一番堂々としているこいつって何者なんだろう。 「……一時間目、英語やんな」 鳴り響くチャイムが、緊迫した空気を散らす。遠慮気味に呟いた那子の言葉に頷いた。 地盤を固めようと考えてやがる。 大学ノートに英文を書き写しながら、アイのしたたかさを恨めしく思う。 誰もが無関係を装う。そんな曖昧な状況を打破しようとしている。 彼女は一対六の構図を欲しているのだ。中立なんて要らない。全員で追いつめて「完全なるいじめ」の形を作り出そうとしている。 アイには、それだけ沙穂ちゃんを恨む理由があるのだろうか。 無害そうに見える女の子だけど、実際彼女は、好意を持って近づいてきた人間を簡単に傷つけた。 りっちゃんに送ったあのメールで……。 メール。そういえば、彼女はどうしてLINEではなくメールを利用したのだろう。 コミュニケーションツールといえばLINE。今はそれが当たり前なのに。 「圭輔がさ、もし俺にメール送るとしたらどういう時に送る?」 「めーる?」 休み時間。圭輔の席に出向いた俺は、先ほど生まれた疑問をぶつけてみた。 「LINEじゃなくて?」 「うん。メール」 なぜそんな質問をするんだ、と言いたげに彼は眉根を寄せた。 「え、てか俺、森也の今のメアド知らんやん」 「へ?」 メアドを知らない? あれ? 「F組って結構一斉にスマホデビューしたやろ? あれからクラス内のやり取りもLINEだけになって、必要ないからメアド交換せんかったやん。メールが使われるのなんか、委員長の沙穂ちゃんが連絡事項送ってくるときぐらいやし。え? なんなん?」 連絡事項がLINEではなくメールなのは、都留のメールを沙穂ちゃんが転送する必要があるからだ。LINEに転送機能は無い。 「そっか……、そういえば、そうやったな」 つまり、俺たちのメアドを知っているのは、このクラスで沙穂ちゃんだけなんだ。いや、待てよ。 LINE。メール。一斉送信。沙穂ちゃんと佐山のやり取り。ガラケー。ID。メアド。最近買ったスマホ。「俺持ってるけど、5なんだよね」……。 「あー、そういえば、なんで沙穂ちゃん、あのときわざわざメールで送ったんかな。ほら、りっちゃんのやつ」 「もっと早く気づければ……」 「え?」 圭輔が、不思議そうに、俺の顔を覗き込む。 佐山の胡散臭い笑顔を思い出した。
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