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返事をしない圭輔に痺れを切らしたアイが、佐山と目を合わせた。
それに気づいた彼は何も言われていないのに、しっかりと笑顔を作る。
「俺は、新参者だし、よくわかんないかな」
それを聞いたアイは、つまらなさそうに「ふうん」と呟く。
新参者のくせに一番堂々としているこいつって何者なんだろう。
「……一時間目、英語やんな」
鳴り響くチャイムが、緊迫した空気を散らす。遠慮気味に呟いた那子の言葉に頷いた。
地盤を固めようと考えてやがる。
大学ノートに英文を書き写しながら、アイのしたたかさを恨めしく思う。
誰もが無関係を装う。そんな曖昧な状況を打破しようとしている。
彼女は一対六の構図を欲しているのだ。中立なんて要らない。全員で追いつめて「完全なるいじめ」の形を作り出そうとしている。
アイには、それだけ沙穂ちゃんを恨む理由があるのだろうか。
無害そうに見える女の子だけど、実際彼女は、好意を持って近づいてきた人間を簡単に傷つけた。
りっちゃんに送ったあのメールで……。
メール。そういえば、彼女はどうしてLINEではなくメールを利用したのだろう。
コミュニケーションツールといえばLINE。今はそれが当たり前なのに。
「圭輔がさ、もし俺にメール送るとしたらどういう時に送る?」
「めーる?」
休み時間。圭輔の席に出向いた俺は、先ほど生まれた疑問をぶつけてみた。
「LINEじゃなくて?」
「うん。メール」
なぜそんな質問をするんだ、と言いたげに彼は眉根を寄せた。
「え、てか俺、森也の今のメアド知らんやん」
「へ?」
メアドを知らない? あれ?
「F組って結構一斉にスマホデビューしたやろ? あれからクラス内のやり取りもLINEだけになって、必要ないからメアド交換せんかったやん。メールが使われるのなんか、委員長の沙穂ちゃんが連絡事項送ってくるときぐらいやし。え? なんなん?」
連絡事項がLINEではなくメールなのは、都留のメールを沙穂ちゃんが転送する必要があるからだ。LINEに転送機能は無い。
「そっか……、そういえば、そうやったな」
つまり、俺たちのメアドを知っているのは、このクラスで沙穂ちゃんだけなんだ。いや、待てよ。
LINE。メール。一斉送信。沙穂ちゃんと佐山のやり取り。ガラケー。ID。メアド。最近買ったスマホ。「俺持ってるけど、5なんだよね」……。
「あー、そういえば、なんで沙穂ちゃん、あのときわざわざメールで送ったんかな。ほら、りっちゃんのやつ」
「もっと早く気づければ……」
「え?」
圭輔が、不思議そうに、俺の顔を覗き込む。
佐山の胡散臭い笑顔を思い出した。
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