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あいつが、破いたノートに書き込んだ、LINEのID……。もし、佐山がメアドもLINEのIDも同じものを使っているのだとしたら、いや、それはもう確実だ。
次に、メールの履歴をさかのぼる。
「あ」
あった……。
「松崎 沙穂です。迷惑メールが多いため、アドレスを変えました。登録のし直し、お願いします」
ああ、やっぱり。こんなメール、俺には来ていない。
「圭輔」
「何ですか、森也くんー。さっきから俺らのこと放置してー」
「ごめんって。それよりお前、このメール来た?」
「んん? アド変? 沙穂ちゃんが? え、知らんで?」
圭輔が、りっちゃんのスマホを覗き込んで言う。
「そうよな、俺も知らんかった」
一応、とその画面をスクリーンショットで残し、自分の携帯に送信しておく。
沙穂ちゃんはアド変なんかしていない。りっちゃんが状況について行けず、首を傾げていた。
りっちゃんが沙穂ちゃんに好意を向けていることを知った佐山は、翌日の学校説明で沙穂ちゃんと二人きりになるチャンスを得た。
「連絡事項を一斉送信するから、佐山くんのメールアドレス教えてもらっていいかな」
きっと、そのような会話があったに違いない。そしてそれは、彼にとってまさに、渡りに船だったのだろう。
「沙穂ちゃん、全員のメアド持ってるんだ。じゃあ、それ教えてもらっていい? 俺さ、いまだにガラケーで。LINEやってないんだよね。
だからクラスメイトとの連絡手段もメールしかないんだ。メアドって全員から聞きまわるの面倒でしょ? 沙穂ちゃんが教えくれたら嬉しいな」
沙穂ちゃんに、断る理由などなかった。
そして、その日。佐山はりっちゃんにメールを送る。
「松崎 沙穂です。迷惑メールが多いため、アドレスを変えました。登録のし直し、お願いします」
こうして、りっちゃんの携帯には、佐山のメアドが沙穂ちゃんの名前で登録されることとなる。
それから佐山は、問題のあのメール。「今後関わるのはやめてください」。あれの送り主は、沙穂ちゃんじゃない。
――佐山、だ。
沙穂ちゃんへのガラケー発言だって嘘に違いない。本当に最近iPhoneを買ったのなら、機種が5であるはずないのだ。
詳しくは知らないが、今店頭に並んでいるのは6か、6プラス、古くても5sという所だろう。
そして、アドレスのすり替えがばれないように、連絡メールも沙穂ちゃんのフリをして送った。
受信時刻がずれていたのもそのせいだ。沙穂ちゃんからのメールを確認してから、りっちゃんに転送した、から。
だけど、一番大事なことが全くわからない。佐山の目的は何なんだ。
佐山の席へと視線を移す。彼はまた無表情で、じっと。……俺を見ていた。ああ、気付いている。そう思った。俺が真相に辿り着いたことを、佐山は気付いている。焦らずに、堂々と。
「!」
にこり、と彼は笑った。
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