1.悪戯メッセージ

26/26
前へ
/145ページ
次へ
あいつが、破いたノートに書き込んだ、LINEのID……。もし、佐山がメアドもLINEのIDも同じものを使っているのだとしたら、いや、それはもう確実だ。 次に、メールの履歴をさかのぼる。 「あ」 あった……。 「松崎 沙穂です。迷惑メールが多いため、アドレスを変えました。登録のし直し、お願いします」 ああ、やっぱり。こんなメール、俺には来ていない。 「圭輔」 「何ですか、森也くんー。さっきから俺らのこと放置してー」 「ごめんって。それよりお前、このメール来た?」 「んん? アド変? 沙穂ちゃんが? え、知らんで?」 圭輔が、りっちゃんのスマホを覗き込んで言う。 「そうよな、俺も知らんかった」 一応、とその画面をスクリーンショットで残し、自分の携帯に送信しておく。 沙穂ちゃんはアド変なんかしていない。りっちゃんが状況について行けず、首を傾げていた。 りっちゃんが沙穂ちゃんに好意を向けていることを知った佐山は、翌日の学校説明で沙穂ちゃんと二人きりになるチャンスを得た。 「連絡事項を一斉送信するから、佐山くんのメールアドレス教えてもらっていいかな」 きっと、そのような会話があったに違いない。そしてそれは、彼にとってまさに、渡りに船だったのだろう。 「沙穂ちゃん、全員のメアド持ってるんだ。じゃあ、それ教えてもらっていい? 俺さ、いまだにガラケーで。LINEやってないんだよね。 だからクラスメイトとの連絡手段もメールしかないんだ。メアドって全員から聞きまわるの面倒でしょ? 沙穂ちゃんが教えくれたら嬉しいな」 沙穂ちゃんに、断る理由などなかった。 そして、その日。佐山はりっちゃんにメールを送る。 「松崎 沙穂です。迷惑メールが多いため、アドレスを変えました。登録のし直し、お願いします」 こうして、りっちゃんの携帯には、佐山のメアドが沙穂ちゃんの名前で登録されることとなる。 それから佐山は、問題のあのメール。「今後関わるのはやめてください」。あれの送り主は、沙穂ちゃんじゃない。 ――佐山、だ。 沙穂ちゃんへのガラケー発言だって嘘に違いない。本当に最近iPhoneを買ったのなら、機種が5であるはずないのだ。 詳しくは知らないが、今店頭に並んでいるのは6か、6プラス、古くても5sという所だろう。 そして、アドレスのすり替えがばれないように、連絡メールも沙穂ちゃんのフリをして送った。 受信時刻がずれていたのもそのせいだ。沙穂ちゃんからのメールを確認してから、りっちゃんに転送した、から。 だけど、一番大事なことが全くわからない。佐山の目的は何なんだ。 佐山の席へと視線を移す。彼はまた無表情で、じっと。……俺を見ていた。ああ、気付いている。そう思った。俺が真相に辿り着いたことを、佐山は気付いている。焦らずに、堂々と。 「!」  にこり、と彼は笑った。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4728人が本棚に入れています
本棚に追加