2.にせものの噺

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――わたしたちの噂学校 掲示板サイト 「噂の人殺しカメレオンが、転校した件@鷹谷」 「コメント」 「ああ、Kを自殺させた奴?」 「そうそう」 「死んでないだろ?」 「未遂よ。とっくに復帰してる」 「三階から飛び降りたんだよね? めっちゃ騒がれてた」  「で、どこ行ったの? 転校先は?」 「亀之湖中学校ってところらしい。兵庫の田舎」 「次の被害が出るな、気の毒すぎるわ」 「待って。自分、亀之湖の生徒なんですけど」 「え? まじで?」  ………… ――この記事にコメントする * なんで。声が出なかった。佐山の、何を考えているのかわからない眼が、俺を圧倒して離さなかった。 沙穂ちゃんじゃない。悪いのは全部、佐山なんだよ。教室中に向けて叫ぼうとしたのに、何も言えなかった。 どうして、ここで俺は躊躇うのか。それを考えたとき、はじめて「違う」のだと気付いた。必死になってメールの真相を追いかけたところで、もう、そんなものは関係なくて。 じり、と焦りが俺の心臓を厭らしく突く。 「学級委員さーん。都留先生が呼んでましたよー。優等生ポイント稼ぎ頑張ってくださーい」 クスクス。クスクス。アイの笑い声に紛れて、那子の笑い声も。アイがりっちゃんと目を合わせる。彼は、従うように愛想笑いを浮かべた。 アイが空気を支配する。アイの思うがままに。教室が色を変えていく。 「なあ、あい……」 かすれた声が、出た。 「んー? どうしたん森也」 多分もう、このときには、俺はすでに諦めていて。ただ少しの使命感に従って、言葉を紡いだ。 「もし、あのメールが、誤解だったとしたら、おまえは……」 「は?」 アイの目が、睨むようなそれに変わった。少しの恐怖感と、「ああ、やっぱりか」という脱力感が、俺を襲う。 今更なんだ。 「場」がかき乱されることを拒んでいる。 ただ、佐山と二人だけで話をする必要がある。わからないことで溢れている状況は何も変わっていないのだから。 「佐山」 放課後。教科書を鞄にしまいながら帰る支度をしている彼に声をかける。いきなり、一緒に帰ろう、なんてやっぱりおかしいだろうか。 でも、相手は俺の言いたいことに気付いているはずだ。 「なんですか、梶さん」 「森也、佐山、一緒に帰ろうぜー」 こんな時に限って、圭輔はタイミングが悪い。 「りっちゃんも一緒に帰るやんなあ。奥山商店で駄菓子買って帰ろうや」 小学生か。奥山商店はこの学校の近くにある駄菓子屋だ。菓子の他に食料品や文房具、さらには衣服なんかも売っており、「駄菓子屋」の枠を飛び出た不思議な店だ。 「俺、今めっちゃキャベツ太郎食いたいねん」 あれ、なんぼやったっけ。えーと、二十円ちゃうかった? まじか。やっすいなあ。 スナック菓子の話題で盛り上がりながら、圭輔とりっちゃんが教室を出ていく。 「俺たちも行きましょうか」 佐山がそう言って、鞄を手に持った。 「……おお」 渋々、返事をする。仕方ない。話し合いは延期としよう。
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