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「お前、聞いたぞ。また遅刻したらしいな。毎日毎日」
「朝弱いねんもん……」
「言い訳になるかあ」
彼が振り上げた巨大な三角定規を慌てて掴む。
「待った待った。ほら、あそこのアホが問題解けんくて困っとうで。行ったらな」
「誰がアホや」
俺の言葉が自分に向けられていると即座に理解したらしい。振り向いた圭輔からの抗議が投げられる。
「こら喧嘩すんな。渋谷、どこがわからんねん」
「全部わからんくて話にならん」
自覚しているとは。意外と謙虚な奴だ。
「先生と仲が良いんですね」
いきなり背中へかけられた声に驚きながら、振り返る。そこには、つまらなさそうに俺を見る佐山がいた。
与えられた課題はすべて終えたらしい。シャーペンから手を離している。
「ふーん、勉強できるんや……」
「あ、意外です?」
「いや別に。……で、なんか言った?」
「変わったクラスですね。授業中に私語があるとは」
ぎょっとして佐山を凝視する。こいつ、今までどんな学校に通っていたんだろう。
いよいよ厄介だ。過ごしてきた環境がこうも違うとは。
「……普通じゃないですかね」
「そうなんですか? へえ、俺も馴染んでいかなきゃですね」
……馴染む気はあるのか。シャーペンを握りなおしたときだ。
「あーっ」という叫び声が教室に響いた。
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