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「ちょっと、りっちゃんが答え書いとうねんけど」
「なんやて、アイ、ほんまか」
「裏切り者―、うちと圭輔とりっちゃんはアホ三人組やったやんか」
……まあ、確かにこのクラスはうるさすぎかもしれない。都留から殴られるアイと圭輔を眺めながら、苦笑を漏らす。
次の休み時間。話題の中心はもう佐山ではなくなっていた。
圭輔とアイの興味は、学級委員長に勉強を教えてもらったという、りっちゃんこと律希に移ったらしい。
「お前の人気、ほんまに一瞬やったな」
「飽きられるの早いですね」
必死に弁解するりっちゃんに視線を向けながら、佐山はさして気にして無さそうに笑う。
「圭輔とアイはああいうの好きやからなあ」
いつの間に来たのか、隣にはポニーテールの女子、那子が立っていた。
「ああいうのって? 色恋沙汰?」
佐山の言葉に、那子は細い目を少しだけ見開いた。
「すごいねえ、もう気付いたん? そうなんよ。りっちゃん、学級委員長の沙さ穂ほが好きで。あの二人、微笑ましいんよ。両方小さくて小学生みたいやもん」
彼女が笑うと、その長いまつ毛が強調される。
まあ、すごいも何も見たらわかるだろう。真っ赤になって焦るりっちゃんを眺めながら思う。
「ああ、りっちゃんって彼、顔も童顔だよね」
佐山の言葉に、「たしかに」と頷いた。
後になって思う。このとき彼の目に滲んだ鋭さを気付けていたら。教室の空気は変わらないでいてくれていたのかもしれない、と。
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