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「で、アイは何してん?」
「ん?」
スマホに向けていた顔を上げるアイ(ちなみに本名を愛あい加かというが、二文字に憧れるという謎の理由で、周りにもあだ名呼びを強制させている)。
大きくうねった黒い髪と健康的な肌の色が特徴的な彼女は、普段なら圭輔に負けないぐらいやかましい存在だ。
「やたら静かやん。気持ち悪いねんけど」
「ええやろ、ウチがたまにはおしとやかでも」
「一向に構わんです」
ぜひとも今後もその調子で。
「なんか腹立つ」
アイは、ジロリと俺を一睨みして、またスマホの画面に視線を戻した。
「……何を一生懸命見てるの?」
りっちゃんが、卵焼きを突き刺したフォーク片手に首を傾げる。
「なんでもええやろー。メールよ」
「はあ? 誰と」
不思議そうに尋ねるのは圭輔。それもそのはずだ。コミュニケーションツールとしてはLINEが一般的な現代で、一生懸命にメールを打つ姿は少し異様である。
「誰とって、同い年の男の子とやけど」
「はあ?」
圭輔が眉根を寄せる。いや、彼だけじゃない。その場の全員が怪訝そうにアイの顔を見る。
「おい、アイ。もしかしてお前、出会い系……」
「は?」
「中学生がそこに手ぇ出すなよ。写真詐欺のおっさんしかおらんぞ」
「ほんま失礼やな、あんたら! そんなんとちゃうわ。放っといてよ、こっちは真剣やねんから」
「真剣……って」
よくわからないが、彼女は妙に気が立っている。これ以上何を聞いてもアイを苛立たせるだけだろう。仕方なく俺たちは押し黙る。
「……あ、沙穂ちゃん、佐山くん」
りっちゃんが声を上げたのを合図に、その場の全員が教室の入り口に目をやった。
「アイの怒鳴り声が聞こえてきたけど。なに、修羅場?」
さして関心も無さそうに佐山が言う。その後ろには、沙穂ちゃんが気まずそうに立っていた。
「いや、大したことないから。で、そっちは? 学校説明やっけ。終わったん?」
二人に話しかけながら、俺は圭輔が押し付けてくるプチトマトを全力で拒む。
「あ、うん。それは大丈夫」
「小さい学校ですからね。教室の場所を覚えるのも問題なさそうです」
そう言って笑顔を作る佐山に、小さい学校で悪かったな、と文句をつける圭輔。
「簡単に機嫌損ねんなって。木造平屋の学校なんか日本中探してもうちだけやぞ。誇りを持て」
仕方なく、圭輔からプチトマトを受け取った。
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