序章

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私の体はまるで標本の蝶のように壁に繋ぎ止められていた。 なぜここにいるのだろう。 それを考えると、なぜか後頭部がズキリと鈍く痛む。 私は痛みに眉をしかめながら顔を上げた。 目が暗闇に慣れてきたのか、辺りの様子がだんだん見えてくる。 窓ひとつない冷たい石の部屋。 目の前には鉄格子の扉がある。 ベッドすらないまるで牢屋のような空間。 「誰か」 私は弱々しく声をあげる。 しかし、その声に答えるものは誰もいない。 なぜ、ここにいるの? なぜ、捕らえられているの? …私は。誰? …そう。 私はその時自分の事すら全く思い出せなかった。
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