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「これを着ろ」
男は自分の着ていたコートを脱ぐと私に手渡す。
ややくたびれた薄手のコートをなんとか羽織ると、ほのかに煙草の香りが漂った。
コートを着終わると、男は私の腕を掴んで立ち上がらせる。
そしてそのまま引っ張りながら牢の外へと私を連れ出した。
牢の外も石で作られた灰色の廊下。
男は黙ったまま私を引っ張りどこかへとつれていこうとしている。
他に何もわからない私は、ただそれに従うしかなかった。
男の後ろ姿を見ながら歩く。
記憶にないはずなのに、煙草の香りも、その背中もなぜか懐かしく感じられた。
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