序章

7/16
前へ
/237ページ
次へ
「これを着ろ」 男は自分の着ていたコートを脱ぐと私に手渡す。 ややくたびれた薄手のコートをなんとか羽織ると、ほのかに煙草の香りが漂った。 コートを着終わると、男は私の腕を掴んで立ち上がらせる。 そしてそのまま引っ張りながら牢の外へと私を連れ出した。 牢の外も石で作られた灰色の廊下。 男は黙ったまま私を引っ張りどこかへとつれていこうとしている。 他に何もわからない私は、ただそれに従うしかなかった。 男の後ろ姿を見ながら歩く。 記憶にないはずなのに、煙草の香りも、その背中もなぜか懐かしく感じられた。
/237ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1616人が本棚に入れています
本棚に追加