プロローグ 『現在(いま)にサヨナラを』

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「A1より各機へ。私はちょっとストーカーの相手をしていく。 全員、全速力で退避せよ!」 そうして彼女は、絶望への生贄に自分を選択した。 自己犠牲のヒーローを演じる訳でも無い。 ただ単に、一人の小娘を捨て石にすれば、他全員が生き残れる可能性が出てくる。 単純な損得勘定だ。 『これでいい』 そう思いながら機体に残された最後の武装―大腿部に装着された対装甲ナイフ―に手を架けたが― 『隊長、それは聞けない命令ですね』 『残るのは我々の方です』 次々と返された拒否の返事。 臨時的にとはいえ、部下となっていた年上の大人達からだ。 「!?…馬鹿な事を言わないで!生き残るなら一人でも多く残る方が……」 『生憎、貴女一人には雑兵十数人以上の価値が有りますので』 『それに我々も死ぬつもりはありません。連中を掃除したら合流しに行きます!』 「っ…」 馬鹿な連中だ。 ただでさえ機体がボロボロで、時間ギリギリなのに、間に合う訳が無い。 嘘が丸解りの強がりだ。任せられる訳が無い。 「…A1了解。直ちにに離脱する」 だがそんな彼等の願いを無下にする。 そんな事をする人間は、それ以下の大馬鹿だ。 『こちらA6フレッド。この仕事の代金は高いぜ…俺の暴れん坊の相手を一晩中でどうよ?』 フレッドは相変わらず下品なジョークを喋ってきた。 今生の別れの挨拶にしては、余りにも品性下劣であった。 「OK。その時はオールナイトフィーバーね!」 しかし、こういう時くらいは、相手に合わすのが仁義だ。 部下との最低な交流を交わした後、彼女は機体を後方に向かって走らせた。 その数十秒後。 先程まで自分がいた方角から爆音が幾つも響いた。 脇にあるモニターを一瞥する。 味方の居る位置を示すマーカーが一つ、また一つと次々と消えていくのが見えた。 「‥ありがとう…」 目頭が熱くなり、視界が滲んで見えた。 だが彼女は走り続ける。 自分の為に命を賭けた部下達に報いる為に。
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