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地下に着いた際の着地姿勢から機体を起こし、再び走り始めた。
多少無茶な駆動をさせた為、脚部のダメージが危険域に達しかけていたが、あえて無視する。
そうして少し進んだ先に、開けた空間が見えてきた。
ようやく目的の場所に到着したのだ。
その場所は、今やある種の静寂と異様に満ちていた。
彼女が今搭乗している、全長10mを越す機械の巨人が、何体でも入れそうな広大な空間。
だがそこに居るのは今や、彼女の駆る一体のみだった。
いや、それだけでは無かった。
部屋の奥には、部屋の隅の両端に二本のタワーが建てられていた。
幾重にも伸びたコードと繋がった機械仕掛けの双塔。関係者は『ゲート』と呼んでいるモノだ。
その機材が作りだしているであろう『それ』が、彼女がこの場所に来た意味の全てが込められていた。
タワーの間の空間は、一種の歪みを作りながら蠢いていた。
複数の色の絵の具を混ぜた水の様に、空間を彩る色彩そのものが溶けて入り混じった『それ』。
―残り時間、あと10秒。
最後発組の『逃避』も終わったであろう今、残ったのは彼女だけ。
深く息を吸い、深呼吸する。
一瞬だけ後ろを振り向き、一言を告げる。
「さようなら…」
もうこの地に戻る事は無い。
永遠の別離。
意を決して、彼女は『ゲート』の作る歪んだ空間に向かって飛び込んだ。
(そう……全ては…これで……始めるんだ………)
五感が全てを意味を成さなくなり、自分と空間の境が曖昧になっていく。
一瞬が永遠に引き延ばされるような、超越的な何かに支配されていく中で、残された思考が渦巻いていた。
(過ちの無い…世界を……)
それが彼女の―いや、世界から『逃避』した者全てが胸に刻み込んだ願いであった。
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