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不意に、そんな僕の肩が誰かに、トントンと叩かれた。
「えっ?」
振り向いた僕が見たのは、背中まで伸びた長い髪を、途中でで一つにまとめた、きれいな女性だった。
服装は、上下おそろいのスウェット姿と言う事から見て……おそらく、近所に住んでいるのでは?と言う感じだ。
「何か、お困りの様子だねぇ?もしかしたら、今燃えているアパートの住人さん、なのかな?
災難、だったねぇ……」
その、世間話でもする様な口調に、僕は、首を大きく横に振る。
「あ、いえ。というか、もしかしたら、ここでお世話になるかも、と言う感じの者なのですが……
あ、もしもご近所にお住まいでしたら、最近、このアパートに引越し屋さんとか来てなかったか、ご存知ないですか?」
するとその女性は、少し考えるようなしぐさをした後、手のひらを打ち合わせた。
「あぁ。そう言えば昨日だったかなぁ?大きなトラックが何か運び込んでいて、邪魔だなぁ、と思ってたんだけど……
今思えばあれって、引越し屋さんだったかも?」
その女性の言葉と、今までの状況から考えて、僕は確信した。
今、目の前で崩れ落ちようとしているアパートは、僕が、入居する予定だったのだと言う事を……。
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