595人が本棚に入れています
本棚に追加
「大丈夫ですか!?」
太志は手足を不器用にバタつかせ、本気で心配している。
胸が押しあてられていることには、まったく気がついていないようだ。
ああ。
脂肪と脂肪がぶつかっているからわからないのか。
太志の腕の脂肪を恨んだ。
「僕の父が経営する病院が近くにあるから、検査だけでもしましょう」
太志は蘭の体を軽々と持ち上げ、あっという間にタクシーに乗り込んだ。
勢いよくエンジン音と響かせ、クラウンのタクシーは見えなくなった。
「行っちゃったね」と慶。
行っちゃったね。じゃないだろ。
いいのか、行かせて。
もし太志が赤ずきんちゃんを襲おうとした悪い狼みたいな奴で、
これからあんなことやこんなことをしようとしたら、どうしたらいいの。
なんて
たいして心配ではない。
太志は悪い奴には見えなかったし、蘭なら間違いなく逃げられると思う。
彼女は“魔性の女”だからね(関係ない)。
「とりあえず蘭からの連絡を待つしかないな」
追跡はひとまず断念し、あたしたちはいつものファミレスで蘭を待つことにした。
今も興奮して頭の中はアドレナリンでいっぱいだけど、
太志を騙すことに、胸が少しだけ痛んだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!