嫉妬心

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ふとテーブルに目を向けると、見慣れた教科書やそれに合った参考書が広げられている。 「これってあたしたち高3の教科書じゃありません?」 右手でそれを持ちあげた。 「ああ、それね。太志が高校生の女の子に勉強を教えることになったんだって。昨日道端でぶつかっちゃったみたいで、罪滅ぼしらしいよ」 明日香さんはクスクスと楽しそうに笑っている。 太志は言ったんだ。 蘭のこと。 もし下心があるなら、きっと秘密にする。 「ちゃんと予習しておかなきゃちゃんと教えられないからね」と、太志は照れたように参考書を見つめた。 慶は黙ってその様子を見ている。 あたしにはわかった。 慶の考えていることが。 太志を見ていれば、きっと誰だって気づくよ。 太志は人を騙すような人間じゃない。 「部屋に行こ」 慶はうつむいたままあたしの手を引いた。 明日香さんに小さくお辞儀をして、階段をあがり慶の部屋に向かう。 大きな慶の背中から、大好きなお姉ちゃんを奪われた哀しさが溢れだしていた。 .
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