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プロローグ
2年前の春、桜の花びらが舞い散る坂道に彼女はいた。
学校に行きたくなくて校門までの坂道をのんびり歩いていると、花吹雪の向こうに彼女を見た。
くたびれたスーツを着た彼女は、気だるそうに空を見上げていた。
その横顔はとてもつまらなそうで、少し不満げで、ひどく寂しそうに見える。
見つめる僕に気付いた彼女は、こちらを見て薄く微笑んだ。
笑顔は冷たく、残酷でまるで悪魔のようだ。
怖くて足がすくむけど、何故か目が離せない。
声をかけようと一歩踏み出した時、ふいに強く吹いた風が桜の花びらを舞い散らし視界を遮った。
手をかざし風をやり過ごした視線の先に、彼女の姿はなかった。
僕は彼女に殺されるのかもしれない。
根拠はないけどそう思った。
2年前の、桜の季節の、僕の記憶。
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