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彼は走る
走る
走る
走り続ける
彼は後ろを見ない
決して見ない
絶対に見ない
後ろを振り返る訳にはいかない
ただ、前だけを見続ける
やがて彼は疲れ果てる
しかし彼は走る
逃げるためではない
追い掛けている訳でもない
なのに彼は走る
誰も彼を見ない
見ようとしない
見ることを躊躇っているのだ
それでも彼は走る
脚は既に悲鳴をあげすらしない
肺も悲鳴をあげない
彼は思う
何故出口が見えないのか
何故道を阻むものが誰もいないのか
何故走り続けなければいけないのか
と
彼は考える
歩いても良いんじゃないか
走るのを諦めても良いんじゃないか
と
しかし彼は足を止めない
止められない
彼は気付く
進む先に見える光に
彼は最後の力を振り絞る
彼は光に近付く
彼は少しずつ光に包まれる
声が聞こえる
「あと少し」
と
彼の視界は真っ白になる
気が付くと彼は足を止めていた
光に包まれながら彼は思う
走り続けた事に何の意味があったのか
走り続ける事で何を得たのか
を
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