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オレは至って普通なガキだった。
そこら辺にいる、勉強に悩み苦しみ、遊びに嵌り楽しみ、恋愛に喜び悲しんでいる一般高校生だ。
友達だって狭く深くでも、広く浅くでもないぐらいにいた。
オレはあのときまでは平々凡々なガキだったんだ。
そんなガキの生活が、世界が一変したのは、高二の冬。登校中のことだった──
それは、時計が俺の許しも遠慮もなく進み、ベッドの上で置いてきぼりを食らった朝のこと。
飯など食べる暇はなく、髪など整える余裕はなかった。
腹の虫は後で追い出すとして、ボサボサ頭は手櫛でなんとか直す。
ひたすらひたむきに学校へ突っ走っていた時、あからさま過ぎて逆に無視したくなるような怪しい人間が前方にいたのが全ての始まりだ。
人間が肌色と黒色だけで塗られている。短髪黒髪、サングラス、黒スーツ、黒ネクタイ、黒革靴。
平然と無表情で、茫然と直立しているだけの男が閑散とした路地に佇んでいる。
寒いですね、と言うには着込んでいなくて、不審者ですか? と訊くのはあからさますぎた。
「『地球には七十億の人間がいる』と思うかい?」
まるでビデオテープのような、無感情に無関心に、ただ再生したかのような声は、容易に寒気を走らせた。
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