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[誰もいないから気付いた]
突然、毎日の不本意な日常がぶつりと途切れた。
いつもなら、戸を開けたらすぐに折原先輩がいるのに、今日はただ学校への道が広がるだけだ。
「…やっと、私の反論聞いてくれたのかな」
ほっとするような気持ちと一緒に、先々週の朝が私のなかに浮かび上がる。
繋いだ手に落とされたキス。
手の甲の印に交わされた約束。
--一緒に行こうって言ったのに。
一瞬そんな思いが過ぎるが、すぐに掻き消す。
--な、何考えてんの、私!?
先輩が来なくて嬉しいはずなのに。
--だって、私あんなに嫌だったし。
毎日毎日待ち伏せされて、挙げ句にはそのせいで私たちが付き合ってるなんて噂まで流れている。
本当に、迷惑だったのだから。
私は、通学路を歩き出す。
考えてみれば、こうして一人で登校するのは久しぶりだ。
私は歩きながら、記憶を辿り始めた。
--入学して、初めての委員会の時。
私は、サボりの常習犯である折原という先輩を探しに行く任務に着かされた。
「……なんで私がこんなこと…先生と目が合ったからって、酷すぎるよ……」
ぶつくさと文句を言いつつも、教えられた『折原臨也のサボりそうな場所』-屋上に向かう。
「言われて仕方なく。
何で自分がこんなことしなくちゃいけないんだろう。
ていうか、何この人。
…ってところかな?」
屋上に出て、そこにいた折原先輩らしき人に話しかけようとすると、彼は振り返らないまま言った。
「え…?」
私は顔を強張らせる。
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