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掴んだ空を左手で固定した状態でフィルスは右腕に微量の力を加えた。
垂れ下げた右腕から浮き出る血管と膨れ上がる筋肉。
そしてフィルスは右手を握り締め、前方の何も無い空間に霞むほどの速度で突き立てた。
「……っ……」
―――聞こえる筈の無い、声に為らない程のくぐもり声が響き渡った。
何も無い筈の空中から血が止めどなく吹き出し、フィルスは避けることなく身体に返り血を浴びる。
「………。……人間か」
血の色、温度、臭い、味。
それらを確認した上でフィルスは目の前にいた者が‐人間‐だと確信した。
そして今現在、姿が徐々に現れてくる最早虫の息同然の人間が、強者の部類に入る者だという事さえも。
……それもトップレベルの強者。
「……風属性を極めた者にだけ許された、自身を‐風‐と一体化させる能力。
一時は無敵とされた能力だが……。
……相手が悪かったな、‐風帝‐」
「………う……だろ……?」
「……『冗談だろ?』か。
いや、悪いが事実は事実だ。
俺が王城を出た時から、気配を消して後をつけるのは良いが人手不足だな。
……まあ‐帝‐を全員連れて来たとしても良くて掠り傷程度だが」
漸く完全に姿を現した二十歳前後の青年が俯せの状態でフィルスを見上げる。
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