純白の姫

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―――現在の時刻は正午。 フィルスが危険度72の‐絶影の森‐に入ってから数刻が経っていた。 陽の光は森を照らすように覆い被さり、木々の所々から漏れだしている。 その光景は時間を忘れてしまう程に美しく、視る者を思わず立ち止まらせる、芸術の域を超えた神々しいものだ。 ……それが絶影の森の唯一の長所。 「‐影喰い‐、‐影縫い‐、‐影憑き‐の三体が頻繁に出現する森の中で時間を潰させやがって。 ……しかも遭遇率が格段に上昇する正午。お前が早く力尽きないせいだ」 フィルスは溜め息を吐きながら、足元に転がっている人間‐だった‐者を咎める。 ……その者は誰かの名前を呟いた後に、直ぐ様生き絶えた。 その声は常人では確実に聞き取れない程に小さく掠れていたが、フィルスの聴覚は意図も簡単に聞き取っていた。        アリア ……死体はその名を確かに呟いた。 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァッッッ――――………くそっ、俺とした事が初歩的なミスを犯してしまった。 少し考えれば解った筈なんだ、第五の勇者である『犠牲』の情報を引き摺りだす事くらい」 フィルスが不機嫌な理由は、自らの失態。 今現在の危機的な状況でさえフィルスは気にしなかった。 ……数百の実体のない敵に囲まれて尚、フィルスは物思いに耽っていたのだった…。
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