華燭之典

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このままだと泣いてしまいそうなので、沖田はさっと和音を背負って皆に背を向けた。が、その背中に声が被さる。 「待ちなさい」 しゃがれた老女の声の主はふでだ。 沖田はゆっくりと振り向いてふでを見る。 「これ途中で食べなさい。頑張るんですよ総司、和音」 ふでは沖田の胸に笹の葉で包んだ握り飯を押し付け、それだけ言うと家の中に引っ込んだ。 まだ温かいそれを抱き、いよいよ涙腺がおかしくなってしまう。 「はは、総ちゃん泣いてるの?」 「そう言う和ちゃんだって涙声じゃないですか」 もう後ろは振り向かない。 寒空の下、二人は進む。 血生臭い新選組へ。
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