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「……亜由美、どうかした?」
「え?」
「元気無い」
繋いだ手を引き、大和さんは私の顔を見つめる。
「そ、ですかね?」
顔を背け、あははと笑って誤魔化す。
大和さんに言っていいものなのだろうか。
あくまで私の憶測な訳で、お兄ちゃんに直接訊いてもいないし。
「えっと、特には……」
「嘘ついたら、お仕置きね」
背けた顔は引き戻され、綺麗で恐ろしい笑顔が私を凍りつかせる。
「…………お兄ちゃんの、ことなんですけど」
「うん」
泳がせていた視線を大和さんに向けると、立ち止まった私達を邪魔そうに避けて通り過ぎていく同じ制服が目に入った。
「ここじゃアレなんで、学校に着いてからで……」
さすがに通学路で出来るような簡単な話ではない。
少なくとも、私には重要な問題だ。
「解った。ちゃんと言ってくれるんだね?」
「……はい」
私が考えていることを言ったら、大和さんはどんな反応を見せるだろう。
私が一番怖いのは、それを聞いて大和さんの気持ちがまたお兄ちゃんに傾いてしまうのではないかということ。
それでも、もう大和さんに嘘はつかないと決めたから。
……大和さんを信じると、決めたから。
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