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「違っ……!亜由美ぃっ!!」
いきなり飛び付いてきて、私をきつく抱き締めるお兄ちゃん。
プロレスさながらに固められ、身体からミシミシと悲鳴があがった気がした。
「ちょっと羨ましいなーって思ってただけなんだよっ!?
大和が彼女なんて作ったの、初めて見たしさ?」
「え……」
その言葉に反応し、お兄ちゃんの肩越しに大和さんを見る。
大和さんは困ったように笑ってから、私に手を振り帰っていった。
「……お兄ちゃん」
「ん?」
「大和さん行っちゃったじゃん」
「へっ!?……ゴメン」
「……うち、入ろ」
しょぼくれるお兄ちゃんを引っ張り、玄関扉に手を伸ばす。
お兄ちゃんは、素直だ。
それでいて、優しい。
大和さんが彼女を作らなかった理由は、ずっとお兄ちゃんを想っていたからだろう。
もし大和さんの気持ちを知ったとき、お兄ちゃんは悩んでしまうと思う。
私の前ではっきりと“親友”だと口にしていたし、私と大和さんが付き合うということに口出しどころか賛成していた。
大和さんは、お兄ちゃんを困らせたくないんだ。
キスなんてしたのも、自分に言い聞かせる為かもしれない。
『今の関係を、壊さない為』
だから私を、
お兄ちゃんの、代わりに。
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