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顔を見られたくなくてそのままつぶやく。くすっと笑う気配がして沈んでいたベッドが浮いた。リナはそのまま動かずに背中から伝わる蒼斗の気配とパソコンを叩く音に耳を傾けていた。
眠れないほどにドキドキして、触れられた肩を意識する。どうしてだろう、キスをされた肩が寂しい。振り向けば蒼斗がいるのに肌が恋しがっている。
声をかければ微笑んでくれるのに声をかけられない。どうしてどうして───こんなにも、物足りないと感じるのか。
リナは混乱し、布団に深く潜り込んだ。
おかしい、変だ。まるで自分がわからない。訳がわからない。
ぐるぐると回る思考に追いつけなくなると次第に眠気が襲い、リナはそのまま眠り込んでいた。
一週間、蒼斗の帰宅は早く山さんが蒼斗の部屋に食事を持ってきてくれるのでリナも一緒に食事をして別館の大浴場ではなく、蒼斗の部屋のお風呂を使っていた。
その日もリナがお風呂から上がると蒼斗はパソコンに向かっていた。そんなに忙しいなら無理に早く帰らなくてもと思いつつも早い時間に蒼斗の姿があるのはうれしかった。
リナは邪魔をしないように静かにベッドに座り蒼斗に背を向けて止めたパジャマのボタンを外して扇ぐ。いくら空調が効いているとは言え、暑いものは暑い。
本当ならズボンも脱いでいたいがそれは蒼斗に怒られるので出来ない。膝を立てて頬杖をついた。
「なぁ、なんで最近早いの?」
やっぱり不思議だった。ずっと朝早く仕事に行って遅く帰ってきていた。たまに午後からの時もあるが、やっぱり帰りは遅いのだ。
リナの問いに顔を上げた蒼斗はリナの後ろ姿を眺める。パジャマからチラチラと脇腹が見えている。だが本人は気づいていないようで、蒼斗は遠慮なく見続ける。
膝を立てはいるがしっかりとズボンを履いていた。蒼斗の中に小さな後悔が芽生えた。
ズボンを履くように教育したのは蒼斗自身だが、もしズボンを履いていなければすらりと伸びた綺麗な脚が眺め放題だったはずだ。
「聞いてる? 蒼斗、何かあったの?」
「あ、ああ。まぁ……」
蒼斗は慌てて曖昧な返事を返したが、リナにはそれが不満だったらしく振り返った顔は不機嫌そのものだ。
「理由くらい教えてくれたっていいじゃん!」
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