愛しき人

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 少し驚いた顔を一瞬見せて蒼斗はすぐにいつもの冷静な表情に戻る。息を弾ませるリナはまさか「お化けが怖かった」などとは口が裂けても言えず、ひきつりながら「なんでもない」と答える。  真実が知れたらどんな意地悪をされることか……。 「今日、休みだったけ?」 「ああ」  休みとは言いつつも書類を読んだりパソコンを操作している。  定期的にパソコンやケータイを確認する蒼斗を見てどこで休みなのか、と呆れるがやっぱりそれが社長と言うものなのだろうと妙に納得してしまう。  リナは邪魔をしないように静かにベッドに潜り込み蒼斗の姿を眺めた。  デスクワークをするとき蒼斗はメガネをかける。その姿が新鮮でさまになっているので、眺めると言うよりは見惚れると言った方が近いかも知れないが、リナ自身そんな自覚はさらさらなかった。 「リナ、変わった事はなかったか?」  視線を外さないまま問われ、なんの事かと反応できなかったが思い当たる節もなく「ないよ?」とだけ答えた。 「しばらくは早めに帰る。食事もここでとる」 「え……いいけど。どうしたの、急に」  きょとんとするリナに蒼斗はメガネの奥から視線が送られドキッとしてしまう。蒼斗はゆったりと微笑んで低くく「ないしょ、だ」と人差し指を唇に当てた。  狡くないか、と思っしまう。内緒にすることもその態度も笑みも、そんな風にされてはもう何も聞けない。  リナはぷぅっと頬を膨らませて見せた。 「そんな顔をするんじゃない。知らない方がいいこともある」 「別に、気にしてないもん」 「そうか? そんな風には見えないがな」  釈然としない顔のリナを面白そうに笑う蒼斗の視線に耐え兼ねてリナは掛布て鼻まで隠して、なんとかその顔を崩してやろうと昼間の話を引き出した。 「そーいえば、北の別館で出たらしいぞ」  ぴくりと蒼斗の眉が微かに動いた。 「幽霊が出たんだって!! 見たやつがいるから本当らしいぞ。やっぱなー、なんか出そうな感じだもんな、あそこ」 「見た、とは幽霊をはっきりと見たのか?」 「え……さぁ。でも、あんな場所、幽霊以外いないだろ」  不思議な質問に首を傾げたが、蒼斗が幽霊に興味を持つのも意外な姿だった。「非科学的事は信じない」とでも言いそうだと感じていただけにリナはまじまじと蒼斗を見ていた。 「蒼斗って幽霊信じるんだ……」
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