愛しき人

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夜も更け、気づけば深夜を回っている。  蒼斗は眼鏡を外して目頭を揉んだ。仕事が立て込んでいるわけではないが、社長不在の会議は部下にとっては困る事も多いだろう。しかし、今屋敷を留守にしていたくはない。  宙からの報告を受けてから梶、槙、宙の四人で秘密裏に調べを進めていた。北の別館には確かに使われた痕跡がある。リナ達の掃除で消えてしまったものもあるだろうが、確実に使われている。  そして、内部者が手引きしているのも確かな事だ。  ただ……正体が掴めない。狙っているのは企業秘密か、怨恨なら蒼斗の命だろう。どちらにしろ油断は出来ない。  微かに聞こえるリナの寝息が張り詰める気持ちを柔らかくしてくれる。守らなければ。リナだけは、なんとしてでも。  立ち上がり一息入れようとコーヒーの準備をする。ドリップすると部屋中にコーヒーの香りが充満していく。  一度眠ってしまったリナは朝まで中々起きないが、ベッドに腰掛けて髪を梳いているとふっと頬が緩んで笑みが零れる。蒼斗は思わず頬に口づけをしていた。  この想いを表現する術があるのなら一体どんな言葉なのか。深く深く、愛おしいよりも深い想い。早く不穏な影を消し去り、平穏を取り戻したい。  会社の為にも社員のためにも、何より自分自身とリナのために。  蒼斗は部屋の明かりを消してコーヒーを片手にソファーに座った。いつ何が起きてもいいようにこの一週間は気を張り詰めていた。  そして、今日……いつもとは違う違和感を感覚的に捕らえていた。来るなら今日かもしれない。  ふと、急に闇が濃くなった気がして蒼斗は立ち上がる。すると、窓ガラスが一定のリズムで鳴り、蒼斗が窓を開けると宙が険しい顔をしていた。  一定のリズムは梶と槙の四人で決めた合図だった。侵入者あり─── 「どこだ」 「北」 「そうか、すぐに行く。宙はここで」  宙は頷いて窓から室内に入る。蒼斗が暗闇でパソコンを立ち上げて各場所に備えられた防犯カメラの映像を画面に出した。  二人で確認していたが、怪しい人影はない。蒼斗は小型のトランシーバーを身につけて廊下へ向かうが途中でリナが蒼斗を呼び足が止まった。  異様な雰囲気を感じ取って目を覚ましたのか、ぼーっとしながらも「どうしたの?」と問い掛けてくる。 「心配ない。すぐに戻る」
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