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「マジで…」
「ああ、だからもう戻れ。一人で大丈夫だよな」
「うん……」
今度こそ素直に言うことを聞いてくれそうで宙は安堵の苦笑いを浮かべた。
「宙、気をつけろよ。刃物持ってたぞ」
真剣に心配してくれていることがうれしかった。蒼斗なら軽くキス出来るのだろうが、宙には出来ない。
情けないなぁ、と頬に触れるとやっぱりキスをしたくなる。そっと顔を近づけるとリナに両手で頭を捕まえられ思わず固まってしまう。
「顔、ちけぇし」
「……うん。だな……」
「大丈夫か?」
蒼斗は自然と受け入れながら自分の時は違うのか。少し落ち込み肩を落とした。リナは無意識だとわかると更に落ち込む。
「……じゃあ、気をつけて行けよ。真っすぐ部屋に戻るんだぞ、いいな? 真っすぐ部屋に戻るんだ」
やけに念を押す宙に怪訝な顔をしながらリナは頷く。
「わかったよ、ちゃんと戻るから。信用ねぇなぁ」
「リナは行動が読めないんだよ! 危なっかしいし。じゃあ俺、行くから」
宙と別れてリナは立ち止まった。来た時は蒼斗を追いかけて夢中だったから気づかなかったが、今改めてみると薄暗さが不気味で急に心細くなってしまう。
こんな事なら宙に部屋までついてきて貰えばよかったと振り返ってみても宙の姿はなく、リナは一人で来た道を戻っていく。
時々なんでもない場所で辺りを見回したり振り返ったりしてみるが別段異変などない。
「気にし過ぎだよな……お、お化けなんていないんだし」
そうは言って見ても怖いものは怖い。びくびくしながらやっと蒼斗の部屋のドアが見えるところまでくるとホッとしたが、人影にビクッと後退した。
「……誰だ?」
浮かび上がるシルエットは蒼斗のものでも宙のものでもない。侵入者はさっき宙が追いかけて行ったはずだ、とここまで思考を巡らせてじっと動かない人影にリナは青ざめた。
「ま、まさか……幽霊? 幽霊なのか!? いや、返事すんなよ! 幽霊だったら返事すんな!! 怖いから!!」
未だ動こうとしない人影にさらに血の気が引いていく。この際、侵入者だろうが泥棒だろうが殺人鬼だろうが関係ない。
「なぁ、人間だよな? 人間なんだよな?」
すると、ゆっくりと人影がこちらを見る気配がしてリナはうろたえながらも攻撃に転じる構えをとった。もちろん、人間であることを切に願って───
「………リナちゃん」
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