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香奈が高校の卒業を目の前にして父を支え続けた母が心労で倒れそのまま帰らぬ人となり、父も後を追うように体調を崩して呆気なくこの世を去ってしまった。
兄は香奈をなんとか卒業させてやろうと奮闘し、やっと卒業が叶うと香奈に話を持ち掛けた。
「復讐をしないか」
頭を打撃されたような衝撃を受けた。兄が独りでそんな事を考え感じていた事に酷くうろたえ、驚いた……だが、充分に理解できる感情でもあった。
それでも理性だけは常に冷静で熱くなる感情のどこか一カ所だけは酷く冷めていた。
復讐なんて何もいいことなんてない、わかってる。わかってた。
だけど、幸せだった時間を奪われた怒りは悔しさは哀しみは、両親を失った虚脱感は後悔はどこに行けばいいのか。誰が受け止めてくれるというのか。
そして、兄はどれだけの事を抱えて自分を支えてくれていたのか。返事をするの時間はかからなかった。ゆっくりとしっかりと頷いた。
脳裏には柔らかな両親の笑顔があった。
「香奈……復讐って……」
喉が焼け付くように乾く。手にはじっとりと汗が滲んで握る刃物を何度も持ち直した。指先が氷の様に冷たくなっていた。
「私達はやらなきゃならないの。リナちゃん……お願い、お願いだから、逃げてっ」
「出来るかよ、んなこと!! 香奈、お願いって逃げてじゃねぇだろ! 助けてほしいじゃねぇのか!!」
「わからないよ、リナちゃんにはっ!! いつもみんなに囲まれて、明るくて……愛されて……。わかるわけない…………」
泣き崩れそうになる体を必死に支えた。揺らぐ視界の先でリナが少しだけ歩みを進めたのがわかった。
「こ、来ないで……来ちゃダメっ!」
「香奈、誰だっていろんな思い抱えてるよ。香奈だけじゃない。アタシだって……同じだ」
リナはぐっと香奈を見据えた。
「死んだ母さんを憎んだ時もあった」
どうして自分を置いて逝ってしまったのか、どうやって生きて行けばいいのかわからず、荒ぶる父の恐怖に怯え依月先輩に助けられた。あの時、世界は真っ暗ですべてがもう終わればいいと願っていた。
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