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天井を見たまま独り言を呟いていた。最後に見た依月の姿が蘇る。「センパイ……」とポツリと呼んでみたがもちろん返事など返ってくるはずもない。
少し、胸の奥が沈んで切なくなってしまった。
「なんだ。もうホームシックか?」
突然、男の声がして飛び起きると部屋を見渡すが、廊下に繋がる扉には誰もいない。リナが振り返ると窓際にあった扉を開け、見知らぬ男が立っていた。
リナは睨みつけて、威嚇する。だが、男はリナの視線をさらりと受け止めて不敵に笑った。
「ずいぶんと色っぽい格好をしているな」
「誰だ……お前」
リナは相手から目を離さずに後ずさりし、武器になりそうなものを手探りで探す。敵わなくとも隙が出来れば逃げ道も出来ると言うものだ。
男が何かしてこようものなら一撃を食らわせ気絶させて悠々と廊下へ続くドアから屋敷を飛び出してやろうと思った。
いや、あるいは警察にでも突き出してやろうか。
思考を巡らすリナを見透かしたように男は言葉を継いだ。
「ほぅ。雇い主によくもそんな口が聞けたものだ」
「……は?」
「桐野リナ。お前を雇ったのは私だと言っている」
「……お前が? ……アタシを?」
あまりにも唐突で頭が追いついて行かない。目の前の男は何を言っているのか、リナは雇われた覚えなど微塵もないのだ。
威嚇の目から訝しげな視線へと変わっていく。だが、男はさも当然のように言い放つ。
「そうだ。契約に従い、な」
「契約?」
男はゆっくりとリナに近づいてくる。リナは警戒心を露わにして叫んだ。
「近づくな!!」
それでも男は歩みを止めずに、余裕の雰囲気さえ出ている。「まぁ、そう警戒するな」と言うと一瞬抵抗したリナの手を掴みベッドに押し倒す。
連れてこられた時もそうだったが、抵抗する隙がない。何か特別な訓練を受けているのかも知れない。
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