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ここ数年、見舞い客はなく、断りもなく訪れる変わらぬ日々と静寂が、唯一の来訪者であった。
そしてその来訪者をこの少女はあまり歓迎してはいない。
ますます翳ってくる瞳をみて男はあわてて口を開いた。
「え~と、そうだ!
看護士さんに連れて行ってもらえばどうだ?ほら、ちょっとなら大丈夫だろ??
この近くでも祭りぐらいやっているんじゃないか?」
それは傍目にも今思いついたばかりだとわかるものだった。
その狼狽ぶりが面白かったのか、男の気遣いが嬉しかったのか僅かにやさしそうな笑みを浮かべて言った。
「無理よ・・・連れて行ってくれるわけないわ。
その花、花言葉とは別にもうひとつあるの。
この花を誰かに贈る場合、
『あなたの死を望みます』
そういう意味になるの。知ってか知らずかわからないけど・・・
けど、みんなきっとそう思っているに違いないわ・・・」
しまったぁ・・・という顔をしながら男は顔に手をあて下をむく。
15,6歳ぐらいだろうか?この年頃の少女が言うにはあまりにも悲しい言葉であった。
「否定はしてくれないのね。」
「・・・・・・っ・・・やる」
「えっ?」
「連れて行ってやる!!俺が祭りに連れていってやるっていってるんだ!!」
「だからもうそんな悲しいことは言うな!」
一瞬きょとんとした後、かぶりを振る。
「やさしいのね……でも、
無理なのよ。
・・・この花の名は
『スノードロップ』ガランサスとも言うわ。冬の終わりから春先に咲く花なの。
それにいくら目が見えないからって今が夏でないことぐらいわかるわ。」
そう穏やかに言う少女の澄んだ瞳の中で、きれいなガランサスの花が咲いていた。
春も間近というのに、窓の外を覆い尽くす白い輝きは、室内にまでその存在を知らしめているのであった。
白い吐息を漏らしながら、ばつの悪そうな顔をするその男に
ありがとう、さぁ連れてってと少女が声を掛けると、2人は窓の方に歩んで行き、霞のごとく消え失せた・・・・・・
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