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「ちなみにあのプラモとあの写真が陸自のT‐九〇戦車。その向こうがアメリカの主力戦車、エイブラムス戦車です。美しいですよね」
「えっと、どのあたりが?」
うかつな質問だと後で気が着いたが、レナは気にしていないようだった。
「もちろん、一〇五ミリライフル砲と車体の比率です。まるで芸術品を見ているようですよね」
「あ、うん。確かに」
つい肯定をしてしまう弱腰の自分が嫌になりそうだった。レナの言葉を一寸も理解していなかった。
「もしかして、川端君も戦車が好きですか?」
「えっと、いや、その……」
肯定と否定の葛藤が心に渦巻き、返事の言葉が出なかった。
そのタイムロスの間に、レナはにわかに笑顔になると、押入れの奥に頭を突っ込んだ。この沈黙を肯定ととらえたらしい。
押入れに頭を入れヒップの曲線美が揺れたが、不思議と官能的なオーラは感じなかった。背中は嫌な冷や汗をかいていた。
「ちょうど良かったです。今、レオパルド戦車の二十分の一スケールのプラモがふたつあります。友好の印に、これ、あげます」
「あ、ありがと」
ジュンは差し出された箱を受け取った。
「では来週末までに勝負です」
「へ?」
「これを茶色と白とベージュの三色を使って、どちらが華麗な都市型迷彩を描けるか勝負です」
「都市……ですか?」
「へんなこと言わないでください。都市型迷彩はいろいろなパターンがあるんです。個性を出してくださいね」
とんでもない勘違いだった。ジュンに戦車の知識は少しも無かった。全てジュンが素直にいえなかったことが原因だが、それを今さら嘆いても仕方がなかった。
ジュンは、その後マニアックな美女に囲まれた生活に振り回されることをまだ知らない。
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