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ジュンは心の高鳴りを抑えてトキワ荘に入った。来週からはここから近所の大学に通学することになる。
トキワ荘は安いが、築年数が古く木造アパートで一間しかなかった。だがひとりで四年間暮らすには申し分なかった。
ジュンは今、故郷のお菓子の菓子箱を手に、ここに住む三人の同級生にあいさつに行こうとしていた。
あいさつなら、大学の学食の会話程度で済む話だが、ここは少々話が違っていた。
ここに住む三人は美人ぞろいだった。
まだニ、三度しか顔を見ていなかったが、明らかにジュンの好みのタイプだった。
面食いという自覚は無いが、仲良くなれ、と男の本能が訴えていた。
†
「こんにちは」
ジュンは扉をノックした。
「どなたですか?」
かわいらしい声が返ってきた。
「川端ジュンといいます。同じアパートの同級生として、あいさつに来ました」
「そうですか。どうぞ、入ってください。あっ、私は古手リカっていいます」
扉を開けてくれたのは、背の高い美人だった。黒髪の一片を黄色く染めていた。
部屋の間取りは当然自宅と同じだった。
だが、入った瞬間目に入ったのは壁を埋め尽くす棚と無数のフィギアだった。
呆然とするジュンであったが、ふと我に返った。
「あ、あの、これ、お土産……」
「うん、ありがとね。今、お茶入れるから。コーヒーのほうがいいかしら?」
「えっと、はい」
根は良い人そうだった。ジュンは導かれるままに百円均一の座布団に座った。少し堅かった。
目は部屋一面に飾られたフィギアを見ていた。
「ドラゴンボール?」
ジュンは呟いた。
「ドラゴンボールを知ってるの?」
リカは嬉しそうに尋ねてきた。目の前の机にコーヒーの入ったマグカップが置かれた。
「えっ!知ら……」
「ですよね!とってもいいですよね、ドラゴンボール」
リカはジュンの言葉を待たずに話し始めた。
「えっとですね、えっとですね、やっぱりキャラが良いですよねぇ。ちなみに私、トランクス様が一番好きです!カッコイイですよねぇ。でも、一番ポピュラーなのは孫悟空です。ジュンさんも知ってますよね?」
いきなり名前で呼ばれて心がグラっと揺れた。
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