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この上に布団を載せていたなんて、気分が悪くなりそうだった。
「これ、全部生姜?」
「もちろん。ジュン君に分けてあげる」
サトコは大きなビニール袋一杯に生姜を詰めた。それをジュンに持たせた。
「こんなにもらって、あの、北条さんが困らない?ダンボールの中身が半分減っているし」
いらない、というメッセージを婉曲じみた言葉で言った。
「ダイジョブ、ダイジョブ。再来週にはまた同じ量が届くの」
「あ、ああ、そう。それは良かった」
「私がこれだけ生姜を分けるのは……ジュン君への信頼っていうかその、愛情っていうか、その印だから……」
上目遣いのサトコはかわいかった。ここは喜ぶべき場面だが、両手にずっしりとくる生姜の重みのせいで喜べなかった。
量から換算してひとりで消費するのに数年はかかりそうだった。
†
ジュンは自宅に戻り生姜で大きく膨らんだビニール袋を置くと長く溜息をついた。
「なんだか、とんでもない人たちだったな。顔だけで判断するととんでもない被害がでてしまう。でも、まだ大丈夫だ。まだひとり、同級生は残っている。今度こそ」
故郷の菓子箱を手に、気持ちを新たにして自宅を出た。もうひとりの同級生とはジュンの部屋の向かい側に住んでいる人だった。オープンキャンパス、入試、そして昨日大学に行ったときも目にしていた。
「こんにちは」
ノックしてみたが応答はなかった。この部屋には朝から人の気配がない
「留守かな」
「あの、ウチになにか用ですか?」
きびすを返して自宅に戻ろうとした時、すぐ後ろの階段を昇ってきた美女が言った。
「あっ、同級生としてあいさつを、と。同じアパートに住むわけだし」
そう言って菓子箱をかざした。
「あの、そうだったのですね。……川端君、よね」
「俺の名前!」
心臓に杭を打たれたような衝撃だった。
「あの、だって向かい側に住んでいるから、名前、覚えていて。すません、勝手に」
「いえいえ、そんなことないですよ。あなたは、竜宮寺レナさん、ですね?」
「あの、はい」
「荷物、持ちましょうか?」
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