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詞子がその言葉の続きを紡ぐことはなく、諦めたように組長と若の二人にただ頭を下げる。
「……よろしくお願い致します。」
こうして、不幸にも詞子は極道の世界に足を踏み入れることになった。
逃げられるわけがない。
若は詞子の言葉に満足したのかニッコリと微笑む。
「詞子、部屋に案内する。ついておいで。」
「はい、若様。」
「若様もそそられるが……詞子は俺の名前を知っているか?」
「そそられる」とは一体なんのことだ?と考え、詞子はその答えを見つけることに諦める。
「あ、いえ……存じ上げません。」
「俺は真田 久遠(サナダクオン)。改めてよろしく。」
「は、はい。よろしくお願い致します、久遠様。」
「様付けか……ま、今はそれでもいい。いずれ呼び捨てにしてもらうぞ。」
「え?あの……私には無理です。」
久遠はいまだに正座で座る詞子を立たせ、襖を開ける。
「親父、一緒は駄目?」
「お前がなにするかわからないからな。駄目だ。」
「はぁ―……無理矢理はしない。」
「いや、駄目だ。信用出来ない。」
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