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「入れ。」
音もなく襖が開けられ、そこに髪をオールバックに整えた男が正座していた。
「失礼致しやす。若、お嬢の家族と名乗る方が来ているんですが……どうしますか?」
「詞子の家族?あぁ、あの女か……わかった。どこだ?」
「別室におります。」
「そうか……仕方ないか。」
久遠は不承不承会うことにし、気持ち良さそうに寝ている詞子に自分の背広を脱いで掛ける。
久遠は詞子の家族に会うことがどうしても嫌だった。
何故ならば――。
久遠が襖の前に立つと先程の男が開けた。
「こんにちは。藤原さん、半月振りですね。ご用件は?」
ニッコリと営業スマイルを浮かべる久遠に対し、正座して待っていた母親はその笑顔に嫌悪感を表す面魂である。
「なにを白々しいことを……娘が、貴方の婚約者にされたと聞いたから飛んで来たのよ。一体それはどういうことかしら?」
「そのままの意味ですよ。半月前にも言ったでしょう?「どうしても婚約者にしたい子がいる」と。まさか、お忘れですか?」
「忘れてないわよ。でも、それがあの子だと貴方はあの時に言ってなかったじゃないっ!!」
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