婚約

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久遠は先程から握り締められていた拳が震える程怒りを覚え、なんとかそれを鎮めようとする。 不意に詞子の寝顔を思い出し、不思議なことにそれだけで怒りが鎮まった。 「一体どういうことです?何故詞子が……父親は詞子を溺愛していたのではないんですか?」 「溺愛していたから、よ。あの人は詞子を自分のものにしようとしたの……ま、結果は未遂に終わったけど。詞子が生きている限り、あの人が詞子を諦めるわけがないわ。だから……私は詞子を一日でも早く死なせようとした。」 母親の言葉を聞き、なにかを考えるような仕種をし、久遠は入口近くの氷室に母親に気付かれぬように目配せをする。 氷室は微かに頷き、そのまま部屋から出て行く。 訝しむように母親は閉じられた襖を見、追求されることを避けるため、久遠は今一番触れたくないことを言うことにした。 母親の興味関心を自分自身に向けるためだ。 「父親は今どこに?」 「知らないわ。大体あの人が逃げた後は一度も会ってないし、連絡もないもの。」 予想通りの母親の対応に久遠は内心ほくそ笑む。
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