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母親は久遠を敵意に満ちた瞳で睨め上げたが、久遠はその母親の瞳を至極楽しげな表情で受け止めた。
久遠のその態度に一抹の疑念を覚えぬ母親ではなかった。
しかし、それよりも優先して先にどうしても言わなければならないことがあった。
「あの人が詞子を見つけるのも時間の問題だと思ったから私はここで働かせたのにっ!!何故無関係な『御影組』が私の邪魔するの!?」
怨みに満ちた眼差しを久遠に向ける。
「詞子を……詞子をあの人に渡すわけにはいかないのにっ!!一体何故?」
「詞子は渡しません。それがたとえ父でも。溺愛してる?ははっ!!」
久遠は笑い、俯いた次の瞬間に殺気に満ちた瞳を母親に向け、部屋の温度が下がる錯覚を覚えさせた。
誰もが動けぬ点において、久遠はこの場の支配者だった。
「ふざけるな。そんな歪んだ父親の感情をよく母親のアンタは溺愛しているという言葉で片付けられるもんだな。」
小馬鹿にしたように嘲る。
「それは溺愛じゃなく、狂愛と言うんだ。詞子は俺の婚約者だ。誰になんと言われても守る。たとえ父親から幾ら積まれても、婚約者を売る気は毛頭ない。」
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