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沈黙がこの場を制した時、
「若っ!!お嬢が……」
と襖の外から男の声が聞こえた。
「詞子がどうした?」
久遠は襖を開けずに聞き、無表情で襖に写る男の影を見つめていた。
何故ならば、男に久遠は一抹の違和感を覚えたのだ。
「実は……」
男がそのまま言い渋る後に不思議そうな声が廊下に響く。
「久遠様?」
――
――――
実は、詞子は数刻前に久遠が母親と対話の最中に起き、自分に掛けられた背広を発見した。
始めは誰のかわからず首を傾げていたが、その時偶然部屋に詞子の様子を見に来た女中に聞くと、始めは詞子同様にわからぬと言っていたが、もしかしたら久遠かもしれないと女中は考えに至った。
事の真相を確かめるべく詞子は廊下を出たが、残念ながら久遠のいる場所がわからず仕方なく適当に歩けば、自分の名前が聞こえた。
その部屋の空気が緊迫しており、何故かその部屋に久遠がいるという期待を詞子は抱いた。
しかし、いざ通り掛かると何故自分が「お嬢」と呼ばれたのかわからない。
久遠の声も聞こえ、詞子は背広を抱き締め、返せることに安堵する。
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